天と地の |
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人生の出直し | |
人にはそれぞれの思惑もあり、人生の目的も経験もその歩みの段階も様々であるように、その生き方も事を詰めれば自己中心的になる事から、人間関係ほど難しいものはない。能あるたかはつめをかくすというけれど、器量も度量も欠けて人間関係も下手では、僅かに身に付けた技術能力だけで、人生を広く渡ってゆく事は出来ない。私はただ技術という能力を見に付ける事だけを目的に、真っ直ぐ進む事を生き甲斐としてきたから、人間関係の理を怠り、現実の壁をその能力の爪一本で理想の夢を追って生きてきたようなものである。 そんな若気で歩んで来た青春時代に悔いはないが、無知で未熟であった人生への反省だけが残った。 その後にサロンを引き継いだ彼は、経営が順調に進まず、日本への送金は徐々に先延ばしとなり、挙句の果てに余額を残したまま打ち切らざるを得なくなってしまった。4万ドルで買って頂けたものを、美容師の知人に簡単な口契約でサロンを譲り、そのまま帰国してしまった事を、父からは頭の出来の悪さを心底疑われたものである。 留学は私の人生に得難い経験をもたらしたけれど、それと同時に生活空間に大きな穴があき、家族や友人達との間の人生観さえも変えてしまう事となった。家族のいる日本に精神的安らぎは得るものの、その生活は豊か過ぎて刺激がなく、円とドルの変動や物価の高騰、そして経済大国となった都会の過密した生活環境が偏狭で重苦しく、今となっては、異郷となった故郷に戻って来たようなものであった。 ずれてしまった生活習慣や感覚があらゆる事の壁となり、高度成長した東京は、今や大都会であり、「お前のような者には、既に居場所のない遠い故郷である」と、言わんばかりの世間に映っていた。 時間と空間をトリップしていたアメリカ生活は過去のもの。家族の間にも壁ができて、今の私を判る人もなく、これからの人生もまた新たな生活を求めてゆかなければならない時ではないかと思い始めた。 日本を発つ時、「今度、日本に帰って来る時には自分を変えて来る」と想って旅立った結果が、全てに於いてこのような有り様となった。日本は社会環境がすっかり変わって全てが豊かになり、心病むものは私1人のようであったし、友人と懐かしむ共通点は八年前に遡る過去の話題と、それぞれがロスアンゼルスに遊びに来てくれた時の記憶が、うっすらと残っているぐらいでしかなかった。 私はこの時、これからの人生のために過去一切を捨て、新たな生活を取り戻す為に、一から出直す必要性を感じていた。 こうして日本での生活環境を取り戻しながら、過去の対人関係に傷心し切っていた |
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「天と地の間に生きて」 | |
第2章:希望 | |
第3章:信仰と心 |